MYTHS
TRANS* TESTOSTERONE よくある誤解

よくある(と、稀な)テストステロンの効果に関する誤解や、誇張された噂など。根拠が無く意味不明なものもあれば、真に受けると健康に害を及ぼしかねないものもあります。

ただ、このページの主張を鵜呑みにせず、疑問点がある場合には必ず主治医や専門家に相談しましょう。 ちょくちょく追加中。

テストステロンにまつわる誤解・ウワサ・誇張

  1. 背が伸びる
  2. 効果は即あらわれる/変化は1~2年で完成する
  3. ヒゲ・体毛がモジャモジャ生えてくる
  4. 胸が無くなる
  5. 使用量が多ければ多いほど大きな/早い効果がある
  6. 経口ホルモンもサイクルすれば安全
  7. ホル注してれば妊娠しない
  8. ペニスが生える
  9. 注射の部位は子宮や心臓から遠いほうが良い
  10. ホル注は肝臓にすっごく悪い
  11. 骨粗鬆症になる
  12. 凶暴になる・性格が変わる

 誤解その@:背が伸びる

残念ながら、発育が止まった(= 骨端線が閉鎖した)成人がホルモンで身長が伸びる(=骨が伸びる)、ということは医学的に不可能なのです。軟骨の成長や足のむくみで多少身長が変わる可能性も完全には否定できないが、基本的にcm単位での成長は無い。「伸びた!」という人の場合、ホル注で自信がついたとか、手術で胸の錘が取れた等の理由で、姿勢が改善したという可能性のほうが大きい。

一度発育が止まってしまった成人は、いくら『背が伸びるサプリメント』を飲もうが『ゴッドハンドの整体』を受けようが、残念ながら骨は伸びない。どーしても、ど〜〜〜〜しても身長を伸ばしたい人は、身長を伸ばす手術を受ける以外に方法は無いと思われる。

 誤解そのA:効果は即あらわれる/変化は1年〜2年で完成する

初期の効果の表われる早さは使用量や体質にもよるし、声や陰核の肥大などのは劇的な変化が最初の1〜2年で見られるが、全ての変化が落ち着く(=『第二次性徴』が終わる)までには3年以上かかるのが通常のようである。

特にヒゲはなかなか生えそろわない場合が多い。 それに、テストステロンの効果は累積するので、一般男性を見れば判ると思うけど、年を重ねるにつれ、髭が濃くなってきたり、髪の毛が薄くなったり、背中にも毛が生えてきたりと、変化は一生続くようなもの。→ 効果が現れるタイムライン

 誤解そのB:ヒゲ・体毛がモジャモジャ生えてくる

使用前と比較すれば、毛深くなります。が、『どの程度まで毛深くなるか』は、殆ど遺伝にコントロールされていて、かなりの個人差があるため、「オレもホル注さえすればヒゲも胸毛もモジャモジャに!!」というのは短絡的。

日本人の場合はもともと体毛が薄めな人も多く、ネット上の写真で見る白人FTMなどのようになれる、という期待は出来ない場合が多い、ということを念頭に置いておいたほうが良いかもね。人によってはまばらなヒゲしか生えず、平均的な成人男性のように生えそろわない場合も。

 誤解そのC:胸がなくなる

皮下脂肪の量や配置が変化することと、バインディングによる形の崩れによって幾分縮むことはあっても、残念ながら『男胸』にはなりません。理由は、乳房は単なる脂肪の袋ではなく、発達した乳腺が多くを占めるから。→ 乳房の構造

ただ、並行して筋トレをしている人の場合、大胸筋(特に鎖骨部)が発達すると鎖骨の下の辺が肥大するので、鎖骨からその下にある乳房までのラインが変わり、 胸の大きさと筋肥大の程度によって、比較的胸が目立たなくなるかも知れません。インクライン・ベンチプレスなどが効果的という話です。

(注:女性ボディービルダーは胸が無い人が多いけど、あれは綿密に計算されたトレーニングと食事制限の賜物であり、テストステロンの力を借りようともちょっとやそっとのトレーニングでああなることは期待できません。)

 誤解そのD:多く使用すればするほど、大きな/早い効果がある

初期の場合は使用量が少ない人より多い人のほうが効果が早くみられるようだが、最終的な変化の程度は変わらない

体が一度に使えるホルモンの量というものは限られていて、余剰分のテストステロンはエストロゲンになってしまうので、逆に女性化してしまう可能性も。ボディービルダーが女性化乳房を発症することがあるのも、そのため(『bitch tits』なんて呼ばれる、笑)。

言うまでも無く、過剰なホルモンの使用による健康への害も相当に深刻。Tには赤血球の生成を促進する作用があるので、血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす危険性が高まるのでやめときましょう。

 誤解そのE:経口ホルモンもサイクルすれば安全

そりゃ絶対使用量が少ないほうがダメージが低いのは当然だろうけど、FTMのトランジションにそういう使い方する意味が判らない・・・。

そもそも「サイクル」(数週間使用して、数週間あいだをおく、を繰り返すこと)というのはボディービルダーがアナボリックステロイドを使う際、自分のHPG軸(視床下部-下垂体-性腺系)が元に戻らなくなる、つまり睾丸が自前のテストステロンを生産しなくなってしまうことを防ぐ目的で行うもので、女体を男性化させたいFTMのホルモン用途とはまったく話が違う。っていうか、卵巣をオーバーライドしたいのに、リカバリーの機会を与えるのは矛盾。そんなことやってたら何時まで経っても生○は止まらないし、ホルモンの上がり下がりによってムードも不安定になる可能性も大きいと思われる。

いずれにせよ、経口ホルモンの効果の不安定さ(継続しても満足な結果が得られない可能性大)と肝毒性(メチルなどの場合)を考えると、余程の理由が無い限りこういう使い方をする意味は無いでしょう。どの角度から見てもいたって中途半端な方法かと。

 誤解そのF:ホル注してれば妊娠しない

生○が止まっても、卵巣摘出手術を受けていない限り、排卵している可能性はあります。XY♂のゲイにとってセーファーセックスを心がけることは重要ですが、生得男性と性交渉を持つFTMにとっては、更に注意が必要なわけです
(勿論、卵巣を取ったからと言ってセーファーセックスを怠るのは稚拙で無責任。性感染症が怖くないのか・・・)。

また、『生○が来た』からと言って妊娠してないとも限らないので、ちょっとでも心当たりがある場合は即検査を。

Safer Sex Info - MASH大阪
STD研究所 - Alba

 誤解そのG:ペニスが生える!

これ、本気で信じてる人っているんかいな・・・。本当だったら誰も苦労しないよなあ。陰核がペニスとして性交に使えるほど長くなるという噂なのだが、個人差はあれど、そこまで肥大するということはほぼ無いと思っておいたほうが良いでしょう。小陰唇や靭帯によって下向きに引っ張られている構造上、挿入は難しいという面も。ホル注で出来たペニスは、せいぜい閲覧注意これくらい ← サイト消えちゃったので、ウェブアーカイブで。

Metoidioplasty(陰核陰茎形成術)を受ける予定の人がよく用いる方法で、パンピングを継続するとかなり肥大するようです。←これはホルモン開始直後からせいぜい1〜2年ほどなら効果が期待できるかも知れない、という程度みたいだし、確証的なデータも存在しない。くどいようですが、元々の大きさやホルモンによって肥大する程度にはかなりの個人差があるということを覚えておきましょう。また、アンドロゲン軟膏(Andractimなど)を直接塗ると肥大するという話もあり、術前に処方する医師もいるようですが、実際FTMに効果があるかどうかは未だ不明瞭。

因みに、一般女性でも、チ○ポと同じで陰核の大きさにはかなりの個人差があります。陰核が大きい女性が、必ずしもテストステロン値が高いとか、テストステロンを使用しているとかいうことではないようです(その場合は毛深いとか声が低いとか、他の作用も見られるだろうし)。

 誤解そのH:注射の部位は、子宮や心臓から遠い方がよい

「子宮の近くに注射するとエストロゲンによって中和されやすい」とか何とかいう理屈らしいが。でも心臓はどういうワケなんだろう・・・。エストロゲンとテストステロンは互いに「中和」するものではありません。テストステロンはエストロゲンに芳香化されることがありますが、その反応に必要なのはエストロゲンではなくアロマテーゼという酵素。

注射されたテストステロンは筋肉から血液中に浸透して、体中を循環しながら、特定の細胞内のテストステロン専用のレセプター(受容体)と合体して核内に取り込まれ、その特定のレセプターがDNA上の特定の位置にくっついて初めて作用するものです。エストロゲンにはエストロゲン専用のレセプターと作用する特定の位置があります。

要するに、注射する位置と以上の臓器との距離は、効果に直接関係無いはずです。重要なのは注射の位置ではなく、血中濃度とT:E2の比のようです。

追記: 但し、特に経皮吸収タイプのテストステロンの場合は、塗る/貼る部位によっては酵素の存在(例えば陰部の皮膚にはテストステロンをより強力なDHTに還元させる5-α還元酵素が多い)や皮膚の厚さなどによって、効果の度合いが左右される可能性があるらしい。陰嚢と腕・腹に塗り貼りする製品が分かれているのはそのためかと。

 誤解そのI:ホル注は肝臓にすっごく悪い

良くはありませんが、「すっごく」悪くもないようです。特に内服薬に比べると、注射やジェル・パッチは直接血液中に吸収されるので、比較的安全です。内服薬が悪いのは、血液中に吸収される前にも肝臓でプロセスされなければならないためらしく、最近は肝臓をバイパスしてリンパから吸収する比較的肝毒性が低い内服薬(テストステロンウンデカン酸エステル、Andriol®など)も出ているようです。

でも、医薬品で肝臓に負担がかかるものは、何もホルモン剤に限ったことではありません。Tよりもっと肝毒性の高い薬は沢山ありますし(アセトアミノフェン/タイレノールなどは、事故・自殺合わせて毎年死者が出てる)、アルコールだって肝臓に悪いのに、平気で常用している人は多いですよね。リスク&ベネフィットを天秤にかけるのが人生、T治療だけに対して目クジラ立てて警告するのは、矛盾していますね。

勿論、もともと肝臓が弱い、肝炎を患ったことがある、アルコールをよく飲む、など危険因子を持つ人の場合は特別な注意が必要で、定期的な血液検査が特に重要にると思うので、しっかり主治医と相談しましょう。

 誤解そのJ:ホル注すると骨粗鬆症になる

骨粗鬆症は、ホル注の仕業ではないです。

骨密度を保つには性ホルモン(テストステロン(以下T)又はエストロゲン)が重要なのは確かで、何らかの理由で性ホルモンの分泌が低い人や、閉経後の女性が骨粗鬆症になりやすいのはそのため。特に女性が男性よりも骨粗鬆症になりやすいのは、閉経によるホルモン値の急激な変化と、骨密度のピークが男性よりも低いことが大きな要因。

FTMの場合、T治療でエストロゲンの分泌量が低くなる分はTの使用自体が補うので、T治療を続けている限りは大丈夫(つまり一番危ないのは卵巣摘出を受けてホル注してない状態)。

以下、ホルモン治療と骨粗鬆症の関連性について出てる論文の要約を抄訳。全文を読んだわけではないし、素人の理解できる範囲での解釈ながら「ホル注 ≠ 骨粗鬆症」という結論は一致するかと。これに矛盾する論文もあるかと思って探したけど見つからなかったよ。

Testosterone increases bone mineral density in female-to-male transsexuals: a case series of 15 subjects. Turner A, et al., 2004. 米国 (要約のみ)
『FTMトランスセクシャルにおけるテストステロン治療は骨密度を増加させる:15名の被験者のケース』
FTM15人(平均年齢:37±3.0歳)を2年間観察。全員テストステロン自家筋注(平均使用量:週70.7±4.5mg)。12ヵ月毎に大腿骨頚部と脊椎の骨密度を測定したところ、2年間で大腿骨頚部の骨密度(BMD)は平均7.8%増加(有意)、脊椎は平均3.1%増加(非有意)。テストステロン値は男性の生理的範囲の上限付近、エストラジオール値は閉経後の女性程度。結論:超標準分泌量テストステロンの使用により骨密度は増加することが窺えた。(訳注:sRANKLだとかOPGだとか細かいことはよく判らんのだが、まあ要するにそれも骨密度増加に繋がっているのかも、ってことらしい。)

Long-term follow-up of bone mineral density and bone metabolism in transsexuals treated with cross-sex hormones. van Kesteren P, et al., 1998. オランダ (要約のみ)
『ホルモン治療中のトランスセクシャルにおける骨密度と骨代謝の長期的観察』
ホルモン治療中のFTM19人とMTF20人の骨密度と骨代謝をホルモン開始1年後と28〜63ヶ月後にモニター。ホルモン開始後13〜35ヵ月後に全員卵巣又は精巣摘出手術を受けた。FTMの場合、1年目にALP上昇。骨密度は1年目変化無かったが、内摘後は急激に低下。MTF・FTMともに骨密度の変化はLH・FSH値に反比例。特にLH値と骨密度との関連性が高い。結論:MTFの場合、エストロゲンが骨密度維持に有効。FTMの場合、使用されたテストステロン使用量では全員の骨密度を維持できなかった。骨密度の低下が見られたFTMは、骨密度とLHの反比例から、テストステロン使用量が不十分であったことが示唆される。原因は使用量不足や医師の指示に従わない使用をしていたことなどが考えられる。LH値は性ホルモン使用量が充分であるかどうかの判断基準として有用と思われる。 

Transsexualism and osteoporosis. Schlatterer K, et al., 1998. ドイツ (要約のみ)
『トランスセクシャリズムと骨粗鬆症』
ホルモン治療中のFTM10人とMTF10人の骨密度を長期に亘り観察した結果、それぞれ一般女性・男性と有意差は見られなかった。また、骨密度の差異は殆どなく、MTFであるかFTMであるかとも年齢とも関連性が見られなかった。この調査の結論、ホルモン治療を受けているトランスセクシャル患者における骨粗鬆症のリスクは低いと思われる

UPDATE:それでも内摘後の骨粗鬆症は心配なので、なるべく早いうちから予防策を生活習慣に取り入れ、骨密度を上げておくことが重要らしいです。内摘前のT使用では骨密度が多少上がるらしいですが、それでも内摘後は徐々に下がってゆくらしいので。
具体的な解説→ 骨粗鬆症予防(内摘のセクション)。

 誤解そのK:凶暴になる/性格が変わる、etc.

これ、ステロイド剤の噂話で一番有名かな?これは明らかに誇張。まず最初に理解しなければならない事は、テストステロンというホルモンは、直接人間の性格を変えることのできる薬物ではない、ということ。短気さや凶暴さはホルモンの値よりも、個人的な経験(虐待など)によって左右されるという研究結果もあるようです。

また、短気な男にT値が高い人が多いと一般的に言われているけど、逆にLOH症候群などT値が低い場合の代表的な症状でもあります。女性にもPMSってものがあるように、これはホルモンの有無ではなく、バランスの問題と言えるのではないでしょうか。

じゃあよく聞くボディービルダーとかレスラーとかで 、ステロイドによって凶暴になった、って話はどーなのかというと、彼らの使用量は大抵並外れていて、血中濃度が生理的正常値を大幅に上回り精巣が縮むくらいガンガン打つので、通常のFTMのホルモン治療とは比較になりません。それに、薬物を乱用するような人には、もともと向こう見ずでアグレッシヴな傾向が強いとも考えられるとなると、必ずしもTの責任とは言えないのでは。

FTMの場合、情緒不安定は注射の間隔によってホルモン値の上 がり下がりが激しいことが原因の場合が多いので、そのような症状が見られる場合には、1度の使用量を減らして注射の頻度を多くしてみると良いかも知れません。

FTMでホル注によって凶暴になったと主張する人の場合、もともとそういう傾向があった上にホルモン使用によって自信がついたりハッピーになったりして、言動がもっと大胆になった可能性や、「ホル注すると荒々しくなる」という先入観からの、一種のプラシーボ現象も考えられるのでは。逆にホルモン治療前は不幸で苛々しがちだった人が、使用によるQOL向上&満足感から精神的に落ち着いた、という事例は沢山あるし。

まあ、要するにもともと落ち着いている人が、Tの使用によって突然凶暴になる、ということは無いので、どうぞご心配なく(たまたま脳梗塞などの脳障害でも併発してない限り・・・)。
理性のある人間なんですから、自分の粗暴さを薬の所為にするのはやめましょうね。

参考:
The Top Ten Testosterone Myths
(Testosterone Nation)
The T-Male 11 Testosterone Myths
(The Transitional Male)
Testosterone Molecule
(World of Molecules)
Transsexualism and Osteoporosis (The FTM Network)
Osteoporosis in Males (University of Washington)

ページトップ










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送