FTMがホルモン治療を始めた場合、なにしろもともとの体が分泌しない量のホルモンを人工的に追加するので、外見はオスに近づく一方、副作用も危惧される。FTMによるテストステロン使用の場合、何をして副作用と言うか難しい部分もあるけど、一般的に『望ましくない作用』としては、以下のようなものが代表的。
- 赤血球値の上昇。血栓ができやすくなるため脳梗塞・心筋梗塞等の危険度増。正常値を超えると多血症（polycythemia）。
男性型脱毛症（Male Pattern Baldness、MPB） 。遺伝が大きく左右し、不可逆。- ニキビ 。個人差かなりあり。人によってはかなり酷く、顔だけにとどまらず背中や胸にまで発生して膿みまくる。使用を続けるうちに落ち着いてくる場合もある。 → 毛嚢炎の可能性もあり、その場合は治療法も違うようなので、酷い場合は医師に要相談。
- 体重増加・肥満（食欲増進）
- 睡眠時無呼吸症候群を発症する危険度増（肥満体型、又は慢性呼吸器疾患がある場合は特に）
- 高脂血症。動脈硬化により循環器系疾患の危険度増。
- 水分・塩分・塩素・カリウム・カルシウム等の貯蓄によるむくみ （主に一時的）。
- ほかに危険因子や既往症がある場合に発症・悪化の可能性があるもの：
- 循環器系疾患
- 高血圧
- II型糖尿病
- 精神疾患の不安定化
- 生得男性の場合：前立腺肥大症や前立腺ガン（使用開始前の検査は必須）
- 急激な筋肉の増加に伴う 靭帯や腱の痛み及び損傷 （靭帯や腱が筋肉の成長に追いつかないため。特に治療開始初期で筋肉の増加の著しい時期に、急に激しい筋トレを始めたりすると起こりやすい）。
- 女性生殖器の萎縮・異常の危険性 注：萎縮以外の異常に関しては、現時点では不確定
- 肝機能障害（薬物性肝障害）の恐れ。ジェルやデポーを標準量使用する場合はそれほど心配は要らないが、長期に亘るテストステロン内服薬の使用は肝毒性が高い （但しAndriol®などは比較的安全）。肝機能検査数値の異常から、肝臓紫斑病、肝腫瘍、黄疸、肝炎など。
- 体の触覚の麻痺・痺れ 。特に使用開始初期、筋肉の増加によって神経が圧迫されるための一時的な症状であるらしい。
- まだ身長が伸びている場合：骨端線閉鎖を促進（身長の伸びが止まる）。
- 継続過剰使用：
- 余分なテストステロンが体内に元々存在するアロマターゼ（芳香化酵素）によってエストラジオール（女性ホルモン）になってしまうことによる弊害
- 乳ガンや子宮ガン等の危険増・むくみの悪化・胸が膨らむ・生理が再開する、などなど。
- 生得男性の場合：精巣機能の抑制（精巣萎縮・精子減少・精液減少などなど）、女性化乳房
- 余分なテストステロンが体内に元々存在するアロマターゼ（芳香化酵素）によってエストラジオール（女性ホルモン）になってしまうことによる弊害
このように羅列するとかなり体に悪そうだけど、元々健康な人が
- FTMのテストステロン治療に関する知識と経験のある医師の指示に従い
- 処方された通りに使用し
- 定期的に健康診断・血液検査等を受け
- 健康的な生活習慣をこころがける
という点を守って継続する分には、テストステロンは比較的安全な薬品であるようです。効果はドラマティックだけど、少なくともMTFのエストロゲン治療よりは安全とか（内分泌科の主治医談）。
問題が生じるのは、ヤミで入手して乱用したり、医者の指示に従わなかったり、持病等でホルモン治療が危険であるにも関わらず使用したり、という場合が殆どのようです（生得男性含め）。
また、医師や患者本人による最善の判断の上で使用していても、運悪く体に合わないこともあるようなので、やはり専門家によるモニターの重要性は強調しておきたいところです。
Tに限った事では無く、薬品の使用や手術等の医療措置には必ず何かしらのリスクが伴うわけだけど、Tの場合は肉体的な健康状態の改善が目的ではない上、個人の社会生活に特に大きく影響を及ぼす不可逆的な作用があるため （まあそれが目的なんだけど） 、使用には特別な注意と考慮が必要なのでしょう。
参考：
エナルモンデポー筋注125mg - 医薬品検索 e-Pharma
エナルモンデポー筋注125mg/250mg - 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
Testosterone Side Effects - Drugs.com
WPATH SOC, ver. 7 - The World Professional Association for Transgender Health
よくわかる！肝機能ナビ - 田辺三菱製薬
