SEXUALORIENTATION
TRANS* SEXUALITY 性指向

 性指向の分類

前述のように、セクシャル・オリエンテーション(性指向)とは、性愛の対象がどの性であるか、ということ。一般的には、「ゲイ」か「ノンケ」か、或いは「バイ」か、という分類がされてる。

でも、人間の性指向を「異性愛 heterosexual」と「同性愛 homoosexual」と「両性愛 bisexual」の3つに区切っていいものなのかな?「バイ」に程度の差があるところをみると、一体どこからが「ノンケ」でどこからが「ゲイ」なのか判らない・・・。それに、セックス自体に殆ど興味が無い「Aセクシャル asexual」な人はどーなるの?ということになるし。

そこで、2005年公開の映画『Kinsey』の題材となったAlfred Kinseyという学者が考案したのが、セクシャル・オリエンテーションを0から6の7段階で表わすKinsey Scale(0が100%異性愛、6が100%同性愛、3が偏りの無い両性愛)を発案した。セクシャル・オリエンテーションは二者(又はバイも含めて三者)択一ではなく、例えば身長や肌の色の様に、グラデーションであるというアイディアで、個人的には頷ける。

こういう分類にこだわりたくない、ハッキリしない、ハッキリさせたくない、どーでもいい、マイノリティーの連帯感を持ちたいなどなどの理由で、自らのセクシャルオリエンテーションを『クィア』 queerと自認する人もいます。元々『Queer』とは「変(なもの)」という意味で、ゲイを指して使われるときは差別用語だったわけですが、当事者が使うことによってムリヤリ意味を引っくり返しちゃって、マイノリティーのプライドを示す言葉になるわけです。黒人が自分達のことを『N*****』と呼びあうのと同じことですね。そういう意味で、『Queer』と名乗ることは、政治的な意思表示を含むことになるんじゃないかな。

また、特にインターセックスやトランスの人は、『パンセクシャル』pansexual 全性愛?)と自認することも多い。「Pan-」は「総て」という意味で、性別のカテゴリーに関係無く好きな人が好き、ということ。そもそも基準となる自分の性が『男』でも『女』でもなかったら、ノンケともバイともゲイとも言えないわけだし、そういう『曖昧な性』の人を好きなる場合も同じだから。

更に、これは性的指向に含むべきかどうか疑問だが、相手の性別云々以前に性的欲求そのものが無い場合は『Asexual』(「エイセクシャル」と発音、「a-」は「無」を意味する接頭辞)という。日本語ではAセクシャル、無性愛、非性愛など。

 性指向の原因

性的マイノリティーの人権に関しては残念ながら後進国な日本では、非当事者間で最も多い同性愛に関する誤解は「ゲイって趣味なんでしょ?」ってことじゃないでしょうか。宗教に託けた差別が基本的に無い分、迫害の度合いが違うからなのか、欧米ではゴリゴリの同性愛差別主義者くらいしか口に出来ないようなセリフである。ちょっと想像すればすぐに気がつくと思うんだけど、わざわざ「趣味」で壮絶なイジメに遭ったり、勘当されホームレスになったり、最悪の場合自らの命を危険に晒すような人間が世界各国こんなにいるとお思いか?(これはトランスも同じ。)誰が好き好んで被差別者になりますか?また、「異性愛者の人は異性愛者になろうと思ってなったわけではないでしょう?」というのも良く耳にするけど、あくまで自分のコンディションが自然でデフォルトだと思っている多数派の人はちょっとピンと来てない印象があるんだが、どうだろ。
まあ兎も角、「同性愛=趣味」という趣旨の発言は、自らの想像力の乏しさを露呈することになるので、非当事者の方はどうぞお気をつけ下さい〜。

ついでに、同性愛者って聞いて「男役?女役?」ってのも、もうイイカゲンにやめましょうよ。同性同士の関係だっつってんのに、何故わざわざ男女関係に当てはめようとするのか、ヘテロノーマティブ(異性愛規範的?)も甚だしい。

閑話休題。APA(米国精神医学会)も'73年にDSMから同性愛を「精神障害」から外したように、個人の同性愛指向は多数派非当事者間の偏見と差別さえなければ、当事者にとっても周囲の人間にとっても何の害もないことなので、「治療」の必要性は全然無い問題であり(人口の中に占める割合も低いから少子化の原因にはなり得ないし、子供作る同性愛者も多いし、そもそもヒトなんて多過ぎんだし・・・)、倫理的な面から言えば、趣味であれ生まれつきであれ原因はどうでも良く、むしろ問題は「生まれつきだから仕方ない」という許容(tolerance)ではなく「異性愛が同性愛よりも良い・正しい」という考え方が根絶しない限り本当の平等は無いという点かと。特に欧米で、近年同性婚など同性愛者の社会的権利が認められるようになってきているのも、多くの当事者による地道なカミングアウト&可視化によって、同性愛者に対する社会的観念が「得体の知れない変態」から「愛する家族や友達にもいる普通の人」に大きくシフトしたことが非常に大きく貢献しているわけで。

それでも「科学的研究によって原因が生得的なものだと確定すれば、社会的権利も訴えやすい」(これはGIDもおんなじね)という主張には一理あるし、知的好奇心からも興味深いトピックであることは確か。ただ、性指向は自由意志で左右される問題ではない、というのが当事者&有識者間のコンセンサスだが、かと言ってハッキリした原因は判って無いのが現状

「生まれつき」ということは、遺伝子或いは胎内での何か、という意味になると思うんだけど、胎内でのホルモンバランスについては、胎内でテストステロンを浴びると男児であろうが女児であろうが性指向が♀に向きやすい、という説もあるが、あまりハッキリしたことがわかっていない。最近のリサーチは、主に遺伝が関わる要素に焦点が当てられていて、特に男性同性愛者を対象にいろいろリサーチが行われている。

1. 遺伝子説

たとえば1991年のBailey & Pillardの調査では、2人の兄弟が両方ゲイである確率は、

という結果らしい。つまり、遺伝が左右することは恐らく間違いないが、遺伝子の有無だけではない何かも働いているらしい、ということになるのかな?まあこれって、大体どんな表現型にも言えることだけど。ゲイ人口が全体の約2〜5%(誰に訊くかによって違うけど)だとしたら、もし遺伝でなければ兄弟が二人ともゲイである確率は極めて低いので、遺伝子との相互関係はあるのは確か。でもその一方、もし性指向が遺伝だけの所為であるなら、一卵性双生児は総ての遺伝子が共通、つまりはクローンなので、両方がゲイの確率は100%に近くても良いはずだけど、そうじゃないわけで。でもその遺伝以外の何か、があったとしても、今のところ全くもって不明。

具体的に性指向を左右する遺伝子の有無については、いろいろリサーチされてるけど、ある程度の相関性は見られても、ハッキリした因果関係までは見つかっていない。具体的な『ゲイ遺伝子』として一番有名なのは、1993年に発表されたXq28に関するリサーチ結果(Hamer, et al., 1993)だけど、のちにその結果と矛盾する論文も出ていて、決定的ではないみたい。

今まで聞いた中で特に興味深いと思ったのは、ゲイ(♂)を兄弟に持つ女性が、そうでない女性に比べて異性に人気がある=子孫が多い、という研究。つまり、子孫を残すという点で、同じ遺伝子(X染色体上にある、ということになるだろうね)が♀にとっては有利に働くが、♂の場合は同性愛になってしまう、という。あー、参考文献が見つからないんだけど、確かHuman Sexualityのクラスで聞いたような・・・。まあ資料が見つからない以上、又聞きでしかないので信憑性は不明だけど。

2. 出生順位説

男性同性愛者の場合、兄の数が多いという調査結果もあるらしい。そのメカニズムについては、男児を妊娠する度に母体で作られる抗体が関係しているのではないか、という憶測があるが、ハッキリしたことは不明 (Zucker, et al, 2003)

3. 身体的相違

また、相関性のみ(因果関係は不明)の分野の調査としては、ノンケ♂とゲイ♂の脳や身体的特徴の違いについていろいろ出てますね。代表的なのは、

♂と♀の両方を対象にしたリサーチもあるけど、基本的に♀の同性愛については殆ど判っていないみたい。ただ、どうやら性愛やコーフンの仕組み自体に性差があるようで、♂と♀では性指向の原因は違うんじゃないか、という見方が強い。

こうしてみると、性指向の『原因』は、遺伝が関係しているのは確かのようだけど、代表的な遺伝病のように特定の遺伝子というわけではなく、いろいろな要素があるのかも・・・って気がするなあ。

 性指向の変化

宗教右派の勢力が強いアメリカでは、「ex-gay movement」と呼ばれる「同性愛者のリハビリ」が行われていたりする(一般的ではないのだが、結構ビルボードなどで宣伝したりしている模様)。 が、恐らくアメリカ国民の大半は、性的指向が個人の選択ではないもので、努力や「治療」で変えられるものではない、ということは判っていると思うし、APAも同性愛の「conversion therapy」は百害あって一利なしと断言している。

ただ、性的指向は「選択の余地が無い」もので「努力で変えられるものではない」からと言って、「絶対に変わらない」というわけでも無いみたい、少なくとも外面的には。そもそも性指向っていうのは、行動に出て初めて目に見えるものだから、ずっと男と寝てた人がある日を境に突然女と寝始めると、いきなり変わったみたいに見えるけど、実際に脳味噌の何処かが変わったのかどうかは判らないし、他に理由も考えられる。性指向の変化はもとより、性指向が一体どこから来るのか、すら、まだハッキリとしたことは判っていないしね。

面白いことに、ホルモン治療を始めたTS/TGの中には、多少の(時には大幅に)セクシャル・オリエンテーションの変化をみる人が少なくない。これはFTMの場合にはテストステロンによる性欲の増加に由来する部分もあるのかも知れないが、そうだとしても対象がシフトするというのは興味深い。

が、 性ホルモンの効果というのは基本的に肉体的なものであり、Tが直接的に性指向を変えるメカニズムというのは考えにくい。では何故このような現象が起こるのか、勿論ハッキリしたことは分かっていないけど、Tの効果による自信・自尊心の向上に伴い、それまで抑制していた指向に初めて忠実になれるからじゃないか、という憶測もある。

いずれにせよ、多くの当事者たちや欧米の心理学会が報告するように性指向は頑張って変えようとして変えられるようなものではない、というのは事実であり、急に性指向が変わったように見える人達は、元々バイであったか、リプレッションと闘った末に何らかの形で解放されたというケースが殆どみたい。また、性指向を2者択一と考えず、Kinsey Scaleのようなディストリビューションを現実と考えると、更に判りやすいのでは。

「Ex-gay」のような人達は、自己嫌悪または宗教等による罪悪感の力で自分の本当の性指向を隠し、「治った」という自己暗示にかかる、又はかかった様なフリをしているか、 或いは元々ゲイ寄りのバイセクシャルだが、同性に惹かれるという事実を押し殺す努力日々重ねているようで、「再発」しちゃう人も多い。

もう1つ注意しなきゃいけないのは、「性的指向」と「性的能力」の混同「ヤリたい」と「ヤレる」のは、別問題、ということ。たとえば、主にノンケ男向けの「レズもの」AVに出てるのはほぼ100%ノンケAV女優だし、男性のポルノ出演料はゲイポルノのほうが断然高いから「gay-for-pay」閲覧注意(お金のための“ゲイ”)のノンケ男優だって結構いる。同性と性交渉するだけなら、ゲイどころか別にバイである必要も無く、求められるのは「おっ勃てられる能力」だけだからね。それは異性とでも同じことで、女性と結婚して子供までいるからってゲイじゃないとは言えない、ってわけ。
(ま、そうキチキチとゲイ・ノンケの区別をすること自体が不毛だと個人的には思うんだけどね。)

ちょっとだけ用語:

Gay(ゲイ):元々は『ハッピーな』とか『華やかな』とかいう意味の単語だったものを、1960年代ごろから当事者達が『queer』や『homosexual』よりも好んで使うようになったことから、同性愛者を意味する言葉になったらしい。広義では同性愛者全般、狭義では男性同性愛者のみを指すことも多い(「Gay & Lesbian」のように)。

Lesbian(レズビアン):女性同性愛者の意味。女性同士の愛をモチーフにした作品を多く残した紀元前6世紀ギリシャの詩人Sapphoが住んでいた島Lesbosが語源(Lesbosの住人=Lesbian)。因みに「レズ」という差別語とそれに対する「ビアン」は和製英語みたいなもん。英語でlesbianの派生差別語は「Lesbo」。元々「男性的な女性」を意味した「Dyke」は差別用語としても当事者の自称としても使われるけど、ちょっと古めかしいかな?

Queer(クィア):元々は同性愛者を指す差別用語だったものを逆手に取ってセクシャルマイノリティーのアイデンティティーにしてしまった言葉。今でも差別用語として使われることもあるが、次第に毒が効かなくなってきている。

Pansexual(パンセクシャル):日本語にすると『全性愛』みたいになっちゃうのかな。あまり一般的ではないが、自らの性同一性が「男」と「女」に当てはまらない人や、そのような人も性愛の対象になる人の性指向を表す言葉。

Asexual(エイセクシャル):無性愛。Aセクシャルとも。性的関心・欲求そのものが無い、という意味で、性的指向の1つとして見なすべきか、性的指向の欠如と見なすべきか、ビミョー。ただ、性交渉無しの恋愛を望む(ロマンティック)場合は、その対象によってヘテロロマンティック、ホモロマンティックなどと表現でき、Aセクでも「異性愛」「同性愛」などを自認するケースも。

DSM精神障害の診断と統計の手引き Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorderの略。APA(米国精神医学会)が発行する精神疾患診断マニュアル。現在使用されているのは、2013年発表のDSM-5(第5版)。

Homophobia(ホモフォビア):同性愛・同性愛者に対する不合理な嫌悪や、同性愛者に対する社会的な抑圧。 個人レベルでは、社会的・性格的な余裕の無さ、無知、自らのセクシャリティーに対する不安感や罪悪感への反動などが影響していることが多々あり。アメリカの場合、宗教を使って正当化する人間が多い。

Ex-Gay(元ゲイ):単純に「元同性愛者で今は異性愛者です」ではなく、信仰の力で「悪魔」と戦って同性愛が「治った」と主張する人のことを指す。アメリカで宗教右派が躍起になってキャンペーンを行っている。「同性愛は変えられる!」と謳って独自の施設などで「リハビリ」を行う。有名どころは、ExodusやNARTHなど(リンクするのもイヤなので、名前だけね)。が、勿論「治った」という人も長続きしないことが多く、中にはJohn Paulkのように『元ゲイ』の顔としてメディアに大々的に活動して(『元ビアン』と結婚して子供まで作って)おきながらゲイバーで男をつかまえようとしてるとこを激写されるような実にハズカシイ結果に終わることもしばしば。

*UPDATE* 前述の「元ゲイ・同性愛治療」主要団体 Exodus International は、2013年に解散(これまでの悪行は許されないが、自らの非を認めて陳謝したのは評価できる)。John Paulkに至っては、結局「元ビアン」妻と離婚、これまで多大な迷惑をかけてきたゲイ・コミュニティーに平謝りして、元・元ゲイ(ややこしや)としてオレゴンでケータリング業を営んでいる。
BREAKING: Alan Chambers Announces Exodus International Is Shutting Down - Truth Wins Out, June 21, 2013
A Formal Apology from John Paulk - Skipping to the Piccolo, April 24, 2013

Conversion/Reparative Therapy:同性愛者を異性愛者に変えるために行われる、信仰や疑似科学に基づく「改造療法」。祈祷、断食、独房生活、時には電気ショックなどが用いられることもある。効果が無いだけでなく、心理的トラウマとして後々に残る悪影響を及ぼすため、米国精神医学会米国医師会(H-160.991)などは、このような「治療」を行うことに断固反対しており、近年では多くの自治体で特に未成年者に対する適用を違法化する動きが出ている。
The Lies and Dangers of Efforts to Change Sexual Orientation or Gender Identity - Human Rights Campaign

最終更新日:2014年3月30日

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